宮中言葉(女房言葉)とは——「おいしい」「しゃもじ」「おでん」も実は宮中発祥!現代語リスト100選

日本語の歴史|女房言葉(御所言葉)

おいしい」も「おでん」も宮中発祥!
知らずに使っている宮中言葉大全

室町時代の女官が生んだ「女房言葉」——現代日本語に残る宮中言葉を一挙紹介

「今日のご飯のおかず、おいしかった?」——この一文の中に、実は宮中発祥の言葉が3つも含まれています。「おかず」「おいしい」、そしてある意味では「ご飯」も。宮中に仕える女官(女房)たちが室町時代に生み出した「女房言葉(にょうぼうことば)」は、600年の時を経て現代の私たちの日常会話に溶け込んでいます。本記事ではその歴史と仕組みを解説し、現代語として定着した宮中言葉をできる限り多くご紹介します。

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📜女房言葉とは何か

女房言葉(にょうぼうことば)とは、室町時代初期頃から宮中や院に仕える女房が使い始め、その一部は現在でも用いられる隠語的な言葉です。(Wikipedia「女房言葉」)「御所言葉(ごしょことば)」「女中言葉(じょちゅうことば)」とも呼ばれます。

HISTORY | 女房言葉の歴史

起源:室町時代初期(14〜15世紀頃)。千年の都・京都の御所で生まれた。

広まり方:宮中→将軍家・高家の女性→町家の裕福な女性→庶民の女性→男性にも広まる。(コトバンク)

なぜ隠語だったのか:食べ物や体に関する直接的な表現を宮中女性が口にすることは「はしたない」とされたため、上品に言い換える言葉が生まれた。

特徴:主に衣食住に関する事物について用いられた。優美で上品な言葉遣いとされ、知らない人には通じない「業界用語」だった。

現代への伝播:江戸時代後期には庶民にも広まり、現代の一般語として定着したものが多い。

🔤女房言葉の作り方——5つのパターン

📌 女房言葉の5つの作り方(コトバンク・Wikipedia「女房言葉」より)

①「お(御)」を語頭につける:「おいしい」「おかず」「おでん」「おもちゃ」「おにぎり」など。

②語の最後に「もじ」をつける:「しゃもじ(杓子)」「すもじ(鮓)」「ゆもじ(湯巻き)」「かもじ(髪)」など。もじは「文字(もじ)」の意から。

③元の語の一部だけを残す(省略):「わら(わらび)」「まき(ちまき)」「きな(きな粉)」など。

④それを繰り返す(畳語):「かうかう→こうこう(香の物=漬物)」「かずかず(数の子)」など。

⑤見た目・性質からあだ名をつける:「おひや(水→冷たいから)」「おかべ(豆腐→白壁のようだから)」「青物(野菜→青いから)」など。

📖最古の記録——『海人藻芥』(1420年)

女房言葉が宮中で日常的に用いられていた事実が記録として登場する最古の史料は、およそ600年前、室町時代のものです。(興味の窓)

📜 恵命院権僧正宣守『海人藻芥(あまのもくず)』(1420年)より

「内裏仙洞ニハ、一切ノ食物ニ異名ヲ付テ被召事也。一向不存知者、当座ニ迷惑スベキ者哉。
飯ヲ供御、酒ハ九献、餅ハカチン、味噌ヲハムシ、塩ハシロモノ、豆腐ハカベ、索麪ハホソモノ……」

(意味:内裏や仙洞御所では、食べ物にはすべて別名がつけられている。全然知らない人は、その場で大変困るだろう)

🍚【食べ物編】宮中発祥の言葉リスト

女房言葉の中で最も多いのが食べ物に関する言葉です。今日の食卓で普通に使われる言葉の多くが、実は宮中生まれです。

おにぎり

← 握り飯に「お」をつけた

「握り飯」に接頭語「お」をつけて上品に言い換えたもの。

おかず

← お数(かず)=「数多く揃えるもの」

「数」を揃えることから「お数(おかず)」。ご飯に添える副食の意。

おでん

← お田楽(でんがく)の略

田楽(串に刺して焼いたもの)に「お」をつけて「おでんがく」→「おでん」に。現在の煮込みおでんとは元の意味が異なる。

おはぎ

← お萩(はぎ)

秋の花・萩の花に見立てて「お萩」。春は牡丹に見立てて「牡丹餅(ぼたもち)」。

おこわ

← お強飯(こわめし)

もち米を蒸した「強飯(こわいい・こわめし)」に「お」をつけて「おこわ」に。

おもち(お餅)

← おかちん(餅の宮中名)

宮中では餅を「おかちん」(「搗飯(かちいい)」が訛ったもの)と呼んだ。のちに「おもち」が一般化。

おつけ

← お付け(汁物全般)

ご飯に「付けて」出すものの意。「おみおつけ」は「おみ(味噌)+おつけ」。関西では今も「おつけ=味噌汁」の意で使う。

お造り

← お造り身(さしみ)

武家で「切る」「刺す」を忌み、関西で魚を切ることを「つくる」と言った。「造り身」に「お」をつけて「お造り身」→「お造り」に。

きなこ

← 黄な粉(きなこ)

黄色い粉だから「黄な粉」。女房言葉由来。「きな」の部分が省略形。

わらび(わら)

← わらびの省略形

「わらび」を「わら」と省略した女房言葉。現代では「わらびもち」などに名残。

ちまき(まき)

← ちまきの省略形

「ちまき」を「まき」と省略した女房言葉。現代では「ちまき」として定着。

【飲み物・調味料編】

おひや

← お冷や(水)

冷たいものだから「お冷や」。水を直接「水」と言うのを避けた宮中言葉。今もレストランなどで使われる。

おみおつけ

← おみ(味噌)+おつけ(汁)

「味噌」の女房言葉「おみ」+「汁物」の女房言葉「おつけ」。関東で今も使われる味噌汁の丁寧な言い方。

おみ(お味噌)

← 味噌(みそ)

「みそ」を「おみ」と言い換えた女房言葉。単独では廃れたが「おみおつけ」に残る。

おしろもの(白もの)

← 白い物=塩

塩を「白いもの」として「白物(しろもの)」と呼んだ。現在は「しろもの(代物)」として別の意味でも使われる。

🍳【料理道具・調理法編】

しゃもじ

← 杓子(しゃくし)+「もじ」

杓子(しゃくし)の「しゃ」に「もじ」をつけて「しゃもじ」。江戸時代の滑稽本にも登場する定着した言葉。

あおもの(青物)

← 野菜の言い換え

野菜を「青いもの」として「青物」と呼んだ。今も青物市場・青物横丁などの地名に残る。

💬【体・感情・形容詞編】——これも宮中言葉!

「おなか」「ひもじい」「おいしい」——これらもすべて宮中生まれです。現代語として完全に定着しており、宮中言葉だとは気づかれにくいグループです。

おいしい

← お+いし(い)=「美し・好ましい」

「いし」という古語の形容詞(美し・好ましいの意)に接頭語「お」が付いて「おいしい」に。味がよいことを丁寧に言おうとした女房言葉。(日経リスキリング)

おなか

← お+中(なか)=腹の婉曲表現

「腹(はら)」を直接言うのを避け、「お中(おなか)」と言い換えた女房言葉。(ブリタニカ国際大百科事典)

ひもじい

← 「ひだるい(空腹)」の変化形

空腹を意味する「ひだるい」が変化した女房言葉。宮中で空腹を直接口にするのを避けたもの。(ブリタニカ国際大百科事典)

おまる

← 放る(まる)+「お」

排泄を意味する古語「放る(まる・ほまる)」に「お」をつけた婉曲表現。あるいは衛生を保つ魔除けの「丸」の意か。(Wikipedia「女房言葉」)

👗【衣類・日用品・行動編】

おもちゃ

← 持て遊び(もちゃそび)の省略

「手に持って遊ぶもの」を「持て遊び」→「もちゃそび」→「もちゃ」と省略し「お」をつけた。(日経リスキリング)

かもじ

← 髪(かみ)+「もじ」

髪の毛・付け毛のことを「か(髪)」に「もじ」をつけて「かもじ」と呼んだ。現代では「添え髪」の意。

ゆもじ

← 湯巻き(ゆまき)+「もじ」

入浴時に腰に巻く布「湯巻き」の女房言葉。浴衣の前身・湯帷子(ゆかたびら)とも関係。「湯もじ」→浴衣文化へ。

しとね(褥)

← 寝床・敷物の上品な言い方

寝床・敷物の上品な言い方。現代では「しとね」として古語的に残るが、寝具の丁寧表現として宮中で使われた。

【その他・意外な言葉編】——知ると驚く宮中語

こうこう(漬物)

← 香の物(こうのもの)の畳語

漬物を「香の物(こうのもの)」と呼び、さらに省略・畳語化して「かうかう→こうこう」に。今も関西・九州などで「こうこう」「こうこ」と言う。

おかべ(豆腐)

← 白壁(おかべ)に似ているから

白い壁に見立てて豆腐を「おかべ」と呼んだ。現代では廃れたが、京都の豆腐屋の屋号などに名残がある。

かずのこ(数の子)

← かずかず(たくさん)→数の子

卵が数多くあることから「かずかず」と呼んだ女房言葉。のちに「数の子」の字が当てられた。

むらさき(イワシの宮中名)

← イワシが藍(鮎)に勝るから

宮中でイワシを「むらさき」と呼んだ。鮎(アユ)は藍(アイ)と読み同じ。藍に勝る(まさる)色=紫(むらさき)から。(ダイス・宮中の女房言葉)

おぞうに(お雑煮)

← 雑煮(ざっかん・ぞうに)

「いろいろと混ぜて煮たもの」の意の「雑煮」に「お」をつけた。元々は武家の縁起料理だったが女房言葉的な「お」で丁寧化。

📋現代語になった宮中言葉——総まとめ一覧表

現代語由来・元の言葉意味
おいしいお+いし(美し・好ましい)味が良い
おかずお数(かず)副食・付け合わせ
おでんお田楽(でんがく)煮込み田楽料理
おにぎりお握り飯握ったご飯
おはぎお萩(秋の花・萩)あんこ餅
おこわお強飯(こわめし)もち米の蒸し飯
お造りお造り身魚の刺し身(関西語)
おひたしお浸し茹で野菜の出汁浸し
おひやお冷や(冷たいから)冷たい水
おみおつけおみ(味噌)+おつけ(汁)味噌汁
きなこ黄な粉(色から)大豆の粉
こうこう(こうこ)香の物→かうかう(畳語)漬物(関西・九州方言)
かずのこかずかず(数多い)ニシンの卵
しゃもじ杓子(しゃくし)+もじご飯をよそう道具
あおもの青物(色から)野菜
おなかお中(腹の婉曲表現)
ひもじいひだるい(空腹)の変化空腹だ
おもちゃ持て遊び→もちゃ+お玩具
かもじ髪(か)+もじ付け毛・添え髪
ゆもじ湯巻き(ゆまき)+もじ入浴用の腰巻き
おまる放る(まる)+お便器・おまる
おかべ白壁に似ているから豆腐(現代では廃れた)
ほそもの細いものの意素麺(現代では廃れた)
むらさき(鰯)藍に勝る→紫イワシの宮中名(廃れた)
お雑煮雑煮(ぞうに)+お正月のお雑煮
お節(おせち)節句(せっく)料理+お節句のご馳走→正月料理

🕰️今は使わなくなった女房言葉

宮中言葉の中には、現代語として定着せずに消えていった言葉も数多くあります。

📌 今では使われなくなった女房言葉(一例)

おかべ:豆腐のこと(白壁に似ているから)→現代では「豆腐」が定着
ほそもの:素麺のこと(細いから)→現代では「そうめん」が定着
むらさき(鰯の意):宮中でイワシを「むらさき」と呼んだ→現代では鰯が定着
おほそ(御細):イワシの別名(細い魚だから)→消滅
おかちん:餅のこと→現代では「おもち」が定着
すもじ:鮓(すし)のこと(す+もじ)→現代では「おすし」「寿司」が定着
九献(くこん):酒のこと(1420年の記録にある)→消滅
供御(くご):ご飯・天皇のお食事のこと→一般語としては消滅

📜 ✦ 宮中言葉 ✦ 📜
🌸

「今日のおかずはおいしかった?おでん食べる?おひや飲む?」
この一文の中に、少なくとも4つの宮中言葉が含まれています。

600年前の室町時代に、御所の女官たちが「上品に」「遠回しに」「隠語として」生み出した言葉が、今も私たちの日常会話の中で生き続けている——日本語の歴史の深さと、宮中文化の影響力の大きさを、改めて感じさせてくれますね。

次に「おいしい」と言うとき、少し御所の女官たちのことを思い出してみてください。

■ 出典・参考文献

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